RTK-GNSSを利用する際によく耳にする
「VRS」と「ネットワーク型RTK(N-RTK)」
実はユーザー目線では、見た目や使い勝手はほぼ同じです。
機器の設定画面で入力する「アカウント接続時の情報」が少し違うだけで、どちらもRTK測位の一種として利用できます。
では、なぜわざわざ2つの名前が存在するのでしょうか?本コラムでは、VRSが誕生した背景や精度の違い、そして「現代におけるそれぞれの立ち位置」について分かりやすく解説します。
VRSが登場する前(1990年代後半~2000年代初め頃)は、国土地理院の電子基準点がまだ少なく、民間の基準点もほぼ存在しない時代でした。当時のRTKは、「基準局から遠く離れると、測位が不安定になる」という大きな弱点がありました。
そこで、基準局から数十km離れた場所でも安定してRTKを成立させるために「VRS」という技術が誕生しました。
VRS(仮想基準点)の仕組み
〇 周囲数十キロ範囲にある複数の基準局データを利用
〇 サーバー側で誤差を推定・計算
〇 ユーザーの観測点の近くに「仮想の基準点」を創出
これにより基準局からの距離に影響される誤差を、
論理的に低減させることができます。
カタログなどでRTK-GNSSの測位精度を見ると、「水平方向:10mm + 1ppm」といった記述をよく見かけます。
この「ppm」とは、
「parts per million(100万分の1)」のこと。
測位においては「基準局から移動局までの距離の100万分の1」の誤差が追加されるという意味になります。
VRS(仮想基準点)の仕組み
〇 基準局から1kmの場合:
10mm + 1mm = ±11mm の精度
〇 基準局から10kmの場合:
10mm + 10mm = ±20mm の精度
このように、通常のRTKは基準局から離れるほど、
誤差が少しずつ大きくなる特性を持っています。
それぞれの精度の違いを比較してみましょう。
【VRSの精度】
〇 基準局からの距離に依存しません。
〇 水平:±2~3cm、鉛直:±3~4cm
【ネットワーク型RTKの精度】
〇 基準局から10km以内:水平±2cm、鉛直±3cm
〇 基準局から20km以内:水平±3cm、鉛直±4cm
おおまかに比較すると、
基準局から20km以内であれば、両者はほぼ同水準の精度であることがわかります。
さらに、実際の基準局に近くなるほど、ネットワーク型RTKの方が安定しやすくなります。
VRSは「基準局の密度に依存せず安定した精度が出せる」という素晴らしい技術です。しかし、現代は当時と環境が大きく変化しています。
〇 公共・民間を含め、地上の基準局の数が大幅に増加しました。
〇 空を飛ぶ測位衛星数が増加し、利用できる周波数も増えました。
〇 多周波を受信できるGNSS受信機の低価格化・高性能化が進みました。
つまり、現代は「実際の基準局が比較的近くにあり」「性能の高い受信機も入手しやすい」という環境の変化が起こりました。
そのため、かつてほどVRSに頼らなくても高精度な測位が可能になり、「VRSの実用上の優位性は薄まっている」というのが現在の実情です。
「VRS」も「ネットワーク型RTK」も、どちらも高精度な測位を実現する素晴らしい技術です。利用する現場の環境や、ご契約の配信サービスの提供エリアに応じて、最適な方式を選択してみてください。
位置計測に関する専門的なご相談や、RTK対応機器の導入については、弊社までお気軽にお問い合わせください。
一般的に測位衛星を表す単語として浸透している「GPS」が、実はアメリカの測位衛星だけを指す用語であり、世界の測位衛星の総称は「GNSS」である……というお話とよく似た現象が、このページの情報にも含まれています。
一般に「VRS」と呼ばれている用語は、本来は「ネットワーク型RTK」という大きな枠組みの中の「ひとつの計算方式」に過ぎません。しかし、測量や建設の実務現場ではいつの間にか用語が使い分けられ、現在では以下のようなニュアンスで使われることが多くなっています。
【ネットワーク型RTK(N-RTK)】
ネットワーク経由で「実際の電子基準点(最寄りなど)」の補正データを直接参照する方式
【VRS(仮想基準点方式)】
複数の電子基準点を元に、サーバー側で「仮想の基準局」を作り出して、そこからの補正データを利用する方式
このページでも、学術的に厳密な用語の定義とは少し異なる使い方をしている面がありますが、実務上はこの認識で会話されることが多いため、豆知識としてその違いを知っておくと会議などの場面で用語の認識が食い違った際に役立ちます。